2017年02月22日

No.61 買収防衛策を導入したら株価は下がる? など2コラム

■買収防衛策を導入したら株価は下がる?

 昔、部下から「買収防衛策導入と株価の関係をデータでとってみたらどうでしょうか?」という相談を受けました。即、「却下」です。なぜなら、労力はかかるけど、有益なデータが取れないからです。

 皆さん、けっこう気にします。「買収防衛策を導入したら株価が下がるんじゃないか?」と。下がるかもしれませんし、場合によっては上がるかもしれません。そもそも、買収防衛策のみを公表しているケースよりは、何かしら別の出来事と同時に公表しているケースが多いと思います。ほとんどの企業が、決算発表と同時に買収防衛策の導入を公表しているので、株価が翌日下がったとしても、実は決算発表による影響が大きいことが考えられます。ですので、買収防衛策の導入が株価に影響を与えたのかどうかはデータでは把握しにくいということです。

 例えば、この会社は買収ターゲットになる可能性が高いだろうとみんなが思っている会社があるとします。その会社が買収防衛策を導入したらどうなるでしょうか?「たぶん、買収されそうな会社が買収防衛策を導入したのだから株価は下がるんじゃないか」というご意見があると思います。

 でも、逆も考えられませんか?「水面下で買収提案をほのめかされたから買収防衛策を導入したんじゃないか?」とみんなが思ったらどうでしょうか?「いよいよ買収されるぞ」と捉えられ、株価が上がることだって想定されます。

 とても買収対象にはならないだろうとみんなが考えていた会社が買収防衛策を導入したらどうでしょうか?例えば安定株主比率が非常に高い会社とか。「買収提案されたから買収防衛策を導入するのか?」とみなされたら、株価は上がるかもしれません。逆に「安定株主である大株主が売却するから買収防衛策を導入するのか?安定株主比率が下がるから導入するのか!」とみなされた場合、株価は下がるかもしれません。

 このように、買収防衛策と株価の関係は不透明です。買収防衛策を導入したからと言って株価が必ずしも下がる訳ではなく、上がることだって想定されるのです。

 大切なことは、理由ではないでしょうか?買収防衛策を導入する理由です。もちろん、真の理由は公表できない場合があります。少なくとも「なるほど。そういう理由で買収防衛策を導入するのか」と納得してもらえるかどうかがポイントです。「保身じゃないか」と思われれば株価は下がるかもしれませんし、まっとうな理由だと思われれば株価は上がるかもしれません。

 買収防衛策を使うことになる経営陣と株主との間に信頼関係を構築することが重要であり、そういう意味では平時からのIRはやはり大切なイベントなんだろうと感じます。いざ敵対的買収が起きても、株主が経営陣を信頼していれば、少なくとも即座に株式を売ってしまうようなことはしないのでしょう。

■重要なことは賛成率の上昇ではない

 最近、株主総会が終了すると「社長選任議案の賛成率が50%台の会社が数多くあった」という報道が目立ちます。一昔前、役員選任議案が50%台ということなどなかったでしょう。それだけ投資家の議案を見る目がシビアになってきたということでしょうか。いや、違いますね。ISSが「ROEが低い会社のトップには反対推奨するぞ!」と言い出したことが大きな要因でしょう。

 よくアドバイザーが「賛成率を上昇させるためには、●●をしましょう」と言います。果たして正しいのでしょうか。場合によっては正しいこともありますが、それをすることで本末転倒になってしまう場合は正しくありません。

 以前申し上げましたが、例えば買収防衛策。「情報提供期間を区切れば、賛成する投資家が増えます」とアドバイスするアドバイザーがいます。申し上げた通り、情報提供期間に期限を設けることは、買収防衛策の機能を著しく低下させます。機能しない買収防衛策と言っても過言ではありません。

 ところで、賛成率って高ければ高いほどよいのでしょうか?そりゃよいのでしょうね。数多くの投資家が賛成してくれているのですから。でも、買収防衛策のように、賛否両論のある議案についてはどうでしょうか?

 私は、高くても低くてもどっちでもよい、過半数さえ取れれば、と思っています。そもそも、賛否両論ある議案です。機関投資家は反対しますが、経営者サイドからすると「買収防衛策は必要」と考えている方が実は多いと思います。そのように賛否の分かれる議案ですし、そもそも反対の人は何を言っても反対します。だから、賛成率を高めるために本来の機能を失うようなことはすべきではないと思います。

 過半数取れれば可決です。よく「可決されたけど、半数近い株主が反対しているのだから買収防衛策はやめたほうがよいのではないか」と言う方がいます。それ、間違いです。「半数以上の株主が賛成している」のです。買収防衛策を否決されるケースでも、けっこうギリギリで否決されています。これは「半数近い株主が賛成したけど否決された」ということです。買収防衛策は、このように「半数近い、もしくは、半数を少し超える株主が反対している」ということをもって「大半の株主が反対している」と言われ、廃止してしまう会社がいらっしゃるのではないかと思います。

 株主は毎日入れ替わります。今年は過半数が反対したけど、たまたまかもしれません。来年の株主総会では過半数が賛成するかもしれません。まともな経営者がまともな株主に対して真摯に説明すれば、外国人と言えども納得してくれる余地はあります。スカラによるソフトブレーンのケースなどを示しながら、時間や情報がないと困るのは経営陣だけではないということを理解してもらうことがポイントではないでしょうか。他社事例をおさえておくことはけっこう重要です。たぶん、ソフトブレーンのケースなど機関投資家は知りません。ソフトブレーンにしろ、ソレキアにしろ、アドバイザーでも見逃しているケースがあります。

 

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