No.1396 セントラル硝子はなんでこうなっちゃったの?
結論:途中までは「市場で売却してExitするんじゃないか」と期待していた。単なる期待。でも途中から「やべー。うちも何百億か払わなきゃならんかも」と思い始めた。最後「100億の自社株買いで市場株価を上げたら出て行くかも。いや出て行ってくれ!」と祈った。神に祈りは届かず500億払った。ってこと。
何の策も思いつかず、かつ、旧村上ファンドと戦う覚悟を持てず、なぜか「最悪500億円払う」というおかしな覚悟を持ってしまったことが敗因。経営陣とアドバイザーの完敗。社員がかわいそう・・・。
順を追って説明します。と言っても私の妄想ですので。なお、村上氏らとの面談は主なものを記載しているだけで、この他にも実施されています。
2018年7月6日 大量保有報告書提出 保有割合5.04%
このときセントラル硝子の経営陣は「え?旧村上ファンドまでうちの株を??」と思ったのではないでしょうか?というのも英シルチェスターもセントラル硝子株を買い増しており、この時点での保有割合は10.52%でしたから、あわせて15%です。おそらく「両方同時に来られるとやばいよね」という危機感はあったはずです。
2019年3月25日 セントラル硝子が買収防衛策の廃止を公表
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4044/tdnet/1686371/00.pdf
まずセントラル硝子は3月決算、6月総会なので、まだ株主名簿は確定していません。一般的に買収防衛策の継続・廃止は決算発表と同時に行うことが多く、なぜ株主名簿も確定していないこの時期に廃止を決断したのでしょうか?旧村上ファンドに買われ、シルチェスターにも持たれている状態ですから、継続しても株主総会で反対され否決されるリスクが高いから廃止する、というのはまあわかります。でもギリギリまで努力した結果、廃止を選択するならまだわかりますが、株主名簿を見る前に廃止を選択するってどうなんでしょうか?同じ時期に東芝機械(芝浦機械)も買収防衛策を廃止したのですが、廃止を決めたのは5月16日です。ギリギリまで悩んだのでしょうね。
https://www.shibaura-machine.co.jp/documents/jp/ir/library/kohyo/2019/20190516_4.pdf
旧村上ファンドにプレッシャーかけられたのかな?「買収防衛策なんて経営者の保身だからやめろ」「やめないと社長の選任議案に反対する。ネガティブキャンペーンもやるぞ」ってな感じで。まあ、私の妄想ですけど。
ちなみに2019年1月に、旧村上ファンドに約23%買われていた新明和工業が約400億円の自己株TOBを実施すると公表しましたので、セントラル硝子経営陣も「うちも同じようなことをやらされるかも・・・」と考えてはいたでしょう。また、2019年1月には伊藤忠商事がデサントに敵対的TOBを仕掛けましたから、敵対的TOBリスクも認識していたのでは?
2019年4月6日 6.13%
大量保有報告書を提出してから9か月間動きがなく、ようやく変更報告書が提出され、買い増したことが判明しました。ただ、「え?買い増してたのか?」と驚いたわけではなく、セントラル硝子は「発行会社による情報提供請求」をして、旧村上ファンドの買い増し状況をチェックしていたと思います。「発行会社による情報提供請求」というのは以下です。簡単に言うと、個別株主の最近6カ月間の売買状況をチェックできます。
https://www.jasdec.com/download/ds/jyouhouteikyouseikyu.pdf
これによってセントラル硝子はおそらく旧村上ファンドの売買状況をチェックしていたでしょうから、変更報告書が提出されて驚いたことはなく、売買状況をチェックし「そろそろ変更報告書が提出されるな」と見ていたでしょう。
2019年
5月13日 6.15%
7月17日 7.19%
8月22日 8.24%
ずいぶんとペースが上がってきましたね。「ちょっとやばいよな」と思っていたでしょう。でも具体的な対抗策はなく「最悪自己株TOBで買い取り。でもなんとか市場で売ってくれ~」もしくは「ほかに行ってくれ~」と祈っていたのでは?
2020年
3月6日 9.27%
2020年1月に旧村上ファンドが東芝機械に敵対的TOBを仕掛け、有事型買収防衛策で対抗することを決め、3月下旬の臨時株主総会で発動議案を可決させました。セントラル硝子の経営陣はこの事例をどう見ていたのでしょうか?「いざとなったらうちも同じように戦うぞ」とは思わなかったのでしょうか?不思議ですね。
5月20日 10.28%
9月8日 11.31%
10%を超えてしまいましたが、一方、9月9日にシルチェスターの保有割合が減少したことが判明しました。おそらく経営陣は「お!シルチェスターが売り始めたぞ!これで村上対応だけやればよさそうやな!」とちょっとだけ安心したのかな?
10月23日 12.35%
11月9日 13.04%
2021年
2月19日 14.05%
6月17日 14.92%
6月24日 15.08%
10月19日 16.09%
12月24日 17.12%
2022年
2月25日 村上氏らと面談(同業他社との統合や非公開化の提案)
3月11日 18.24%
4月1日 セントラル硝子が海外ガラス事業の撤退を公表
4月5日 村上氏らと面談(保有株の売却を示唆された模様)
4月15日 19.28%
「もうダメかも・・・」と思ったでしょうね。だからようやく重い腰を上げ、以下の公表をしたのでは?
5月11日 セントラル硝子が500万株(自己株を除く発行済の12.34%)・100億円の自社株買い公表
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4044/tdnet/2117154/00.pdf
「株価上がってくれ~!」「市場で売り始めてくれ~!」って祈ったことでしょう。しかし祈りは神に届きませんでした。
5月19日 村上氏らと面談(株を買い増し非公開化に関して言及)
5月27日 25.35%
The Endです。旧村上ファンドがシルチェスターから相対で株式を取得し、保有割合をいきに25.35%に引き上げてきました。旧村上ファンドの「そんな規模の自社株買いでは足りない」というメッセージでしょう。おそらくセントラル硝子の経営陣は「これで売ってくれたらラッキー。ダメなら旧村上ファンドと交渉して100億円の自社株買いを中止し、もっと規模の大きい自己株TOBをするしかない」と考えていたのかもしれません。
6月29日 26.42%
7月25日 同業他社との経営統合やMBO等による非公開化に関する旧村上ファンドからの書簡を受領
7月26日 27.44%(議決権割合29.22%)
8月4日 村上氏らと面談(25日付書簡の説明と自己株TOBをしたら応じる可能性がある旨の言及)
8月19日 村上氏らと電話会議(自己株TOBを検討している旨説明、村上氏らから応募することは選択肢の1つとの意向が示された)
8月22日 村上氏らと協議
8月26日 村上氏らと再度協議
9月6日 村上氏らと再度協議。TOB価格3,500円で提示。村上氏らが応募の意向を表明
9月20日 応募契約締結
セントラル硝子ってかなり前に大量保有報告書を提出されており、既述のとおり、この間、東芝機械が有事型で旧村上ファンドに対抗しました。最近ではジャフコが取締役会決議で有事型買収防衛策を導入して抵抗しています。一方でなすすべなく多額のお金をかけて旧村上ファンドから自己株TOBで買い取ったケースもたくさんあります。
この差って何なんでしょうかね?もちろんアドバイザーの違いは大きいと思いますが、一方で同じアドバイザーがついても有事型で対抗したり、自己株TOBで買い取ったりとまちまちです(もちろん株主構成もあります)。
結局のところアドバイザーがどうアドバイスしようが、経営陣が腹をくくれなければ何もできないんですよ。経営陣が腹をくくって「500億円も株主還元に充てられない。そんな要求をしてくるのなら徹底的に戦う」という覚悟を持たないとダメということです。セントラル硝子の経営陣は、セントラル硝子のステークホルダーは株主しかいないとでも思っていたのかな?従業員や取引先、金融機関等々は今回の騒動をちゃーんと見てますよ。
今度は株主以外のステークホルダーに愛想をつかされないよう、経営陣は祈ったほうがよいです。