2017年01月10日

No.44 このご時世に買収防衛策を新規導入する会社とは?など2コラム

■このご時世に買収防衛策を新規導入する会社とは?

 買収防衛策を廃止する企業が増えている中で、新規に導入する企業も中にはあります。MARRの調査によると、2014年4月から2015年4月末までの間で5社導入したそうです。導入した会社は、保土ヶ谷化学工業、省電舎、西松屋チェーン、電算、日建工学です。また、2015年7月以降、2016年4月末までの間に導入した企業は、丸八倉庫、瑞光、永大化工の3社だそうです。

 これらの企業はなぜ買収防衛策を導入したのでしょうか?各社のニュースリリースや大量保有報告書の提出状況などを調べてみましょう。

もうおわかりですよね。買収防衛策を導入した主な理由は2つです。安定株主比率の低下と大量保有報告書の提出です。

業務提携先との提携解消による安定株主の減少、エクイティによる資金調達をしたことによるダイリューション、です。資金調達により安定株主比率が低下してしまう。今までであれば業務提携先という安定株主がいたものの、解消によりいなくなってしまうだから買収防衛策を導入した、ということでしょうか。

大量保有報告書をファンドや事業会社が提出し、以降もどんどん買い増してきた。変更報告書が提出され、このままでは経営に重要な影響をおよぼすレベルの株式を取得されてしまうリスクがある。だから買収防衛策を導入した、ということでしょうか。

買収防衛策を廃止する企業が増えているご時世に、買収防衛策を新規導入する企業には特別な背景、理由があるということですね。興味深いのは、何か起きると買収防衛策を導入する、という点です。やはり皆さん、買収防衛策はある程度の効果があると考えているのだと思います。「とりあえず買収防衛策を導入しておけば、20%以上買い増してくることはないだろう」と考えているのではないでしょうか。

安定株主比率の低下と大量保有報告書の提出。この2つリスク、何も上表の企業だけのリスクではありません。どこの会社にも発生しうるリスクです。

■買収防衛策を廃止した会社が再導入するには?

 川崎汽船の状況を見て、いかがでしょうか?エフィッシモがうちの会社に目を着けたらどうする?とお考えになったことはありませんか?このご時世で買収防衛策を新規導入した会社には理由があります、と申し上げました。安定株主比率が低下したから、大量保有報告書が提出されたから買収防衛策を導入した。しかし、どの会社にも共通しているのが、過去、買収防衛策を導入していなかった、ことです。つまり、一度廃止した会社が再導入したケースは私が記憶している限り、ないと思います。カプコンのように、株主総会で否決されたけど再度株主総会にはかって可決した会社は除きます。

 新規導入した会社は、ある意味、新規導入「できた」会社です。一度廃止した企業はどうでしょうか?突然、大量保有報告書が提出される可能性はあります。というか、一度は買収防衛策を導入していた会社ですから、何かしら弱みがあったはずです。弱みがあったからこそ「念のため買収防衛策を導入しておいたほうがよい」と考えたのではないでしょうか。ところで、その弱みは解消できましたか?解消できたのであれば問題は小さくなりました。買収者から狙われるリスクが低下したということですから。

 しかし、弱みを解消しないまま、買収防衛策を廃止してしまった会社はないでしょうか。あると思います。その会社は狙われるリスクが小さくなっていないのに、買収防衛策を廃止してしまったのですから、より狙われやすくなったということです。

 たぶん「いや、いいんだ!うちの会社を買いたいというのであれば買えばよい。買収防衛策はいらない!」と主張すると思います。本当ですか?会社を解体されても構いませんか?従業員がリストラされても構いませんか?買収者が全員、まっとうなストラテジックバイヤーとは限りません。利益を得るためには手段を択ばないという人たちもいます。

 川崎汽船の状況を見ていかがでしょう?「買収防衛策を廃止してしまったのだから、大量保有報告書が提出されても、買収防衛策を再導入するという訳にはいかないだろうな」と思いませんか?

 では、再導入する方法はあるのか?簡単です。「再度、導入します」と言ってしまえばよいだけです。投資家からは「なぜだ!」と言われるかもしれませんが、「いや、よーく考えたのですが、まともな買収提案ならよいのですが、昨今、目的のよくわからない買収が実行されています。やはり、株主や経営陣にとって時間と情報の確保は必要と再認識しました」と思い切って言ってしまえばよいと思います。「それじゃあ、株主は納得しないだろ!」とおっしゃるかもしれませんが、そもそも外国人株主は買収防衛策に反対していますから、何を言おうが納得しません。高値で売却する機会をジャマする可能性のある防衛策には反対でしょう。

再導入できるかは貴社の株主構成次第です。あとは、納得性と「この経営陣なら買収防衛策を濫用しないだろう」という信頼性です。タイミングも重要ですね。大量保有報告書が提出されてからでは「時すでに遅し」「勝負あり」です。貴社が買収防衛策を再導入すれば、日本企業が変わります。

でも、そうは言っても買収防衛策を再導入することはハードルが高いと思いますし、「導入して廃止してまたさらに導入するとは、いったい経営陣は何を考えているのか?」と非難されるでしょう。でも、突然買収提案が実施されたらどうしますか?まともな買収提案なら構いません。皆さんがおっしゃったとおり、まともに検討すればよいのです。しかし、まともじゃない買収だったらどうしますか?突然、大量保有報告書が提出され、みるみるうちに保有割合が30%を超えてきたら?そのときに買収防衛策を導入しようとしても「うちは廃止してしまったからムリだ」と思ってしまいますよね。

買収防衛策を廃止したとしても、平時の今のうちから、まともじゃない買収が実施される場合の備えは検討しておく必要があると思います。株式を相当程度取得されてしまうリスクは常にあるからです。

・アクティビストファンドが大量保有報告書を提出したらどうするか?

・有事に買収防衛策を再導入するにはどうすればよいか?

・再導入することも念頭において、平時にどういうことを準備し、どういう施策を打っておけばよいか?

 

最悪のケースをシミュレーションして、今のうちから手を打っておくことが重要です。

 

 

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